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映画「レヴェナント」の疑問点を解説します

  最終更新日:2016/08/18

映画「レヴェナント」解説

 この記事は映画「レヴェナント」とその原作本の疑問点を個人的に調べてまとめたものです。また、解説的な内容も含みます。ネタバレ全開なので、映画をまだ見ていない方や原作小説を読む予定の方はご注意下さい。

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「レヴェナント」の意味

 ”レヴェナント”の英語のつづりは”revenant”です。造語ではなく、英和辞書で調べると載っている単語です。幽霊、亡霊、長い不在から戻ってきた人を意味します。副題の「蘇えりし者」の意味そのままです。

 なお、本来の送り仮名は”蘇る(よみがえ・り)”が正しいのに、なぜ”蘇える(よみが・えり)”としたのか良く分かりません。明らかな誤りなのですが、邦題を決める際に誰も気付かなかったのでしょうか。日本語変換でも”蘇えり”は絶対に出てこないので、誰も気付かないはずはないのですが……。誤りなのかわざとなのか、謎です。

2016年5月10日追記)ご指摘があったため改めて調べた所、大藪春彦著の『蘇える金狼』が「蘇える」を広めた元祖のようです(1964年、昭和39年刊行)。指摘者様の言葉を借りてしまいますが、「蘇る」よりも「蘇える」のほうが視覚的に綺麗です。また、文化庁によると、一般的に正しいとされる送り仮名はあくまで「本則」のようです。その本則に「例外」、「許容」が加わるため、何を持って正しい送り仮名とするかは、時と場合によると思われます。

レヴェナントの時代のアメリカ

 レヴェナントで描かれた物語は1823年の出来事です。アメリカ独立宣言が行われた1776年から47年後、合衆国憲法が制定された1787年から36年経過しています。また、1823年は欧州大陸とアメリカ大陸の相互不干渉を唱えるモンロー宣言が発表された年でもあります。

 主にイギリス、フランスの植民地として開発が始まった北米ですが、北米植民地戦争、アメリカ独立戦争、米英戦争などを経て、アメリカは国としての力を付けていきます。調べれば調べるほど、多民族国家、銃社会、強い政府など、アメリカを象徴する事柄がここまでの時代に現れています。

 ここまでは、白人社会から見たアメリカの歴史です。先住民族であるアメリカ・インディアンから見ると迫害の歴史です(ネイティブ・アメリカンと呼ぶべきと言う意見もあるかと思いますが、広義の意味ではイヌイットやハワイ先住民まで含んでしまうため、本記事ではアメリカ・インディアンと呼ぶこととします)。

 始まりからして残酷です。15世紀にアメリカ大陸に上陸したクリストファー・コロンブスは、数年にわたってインディアン部族を虐殺しています。その後もアメリカ大陸に入植した白人から見ればインディアンは基本的に邪魔者なので、自分達に都合の良いように排除し利用しています。

 インディアンと白人の文化の違いから生じた摩擦が原因でインディアン戦争と呼ばれる一連の戦争に発展しています。白人がインディアンの文化を正しく理解しようとしなかったことが戦争の一因になったようです。

 1830年にアンドリュー・ジャクソン大統領によって「インディアン移民法」が成立します。これは民族浄化政策で、「インディアンを強制移民させ、従わない部族は絶滅させる」とする政策でした。金鉱山目当てに強制移住させられるなど、明らかに白人に都合の良い政策です。レヴェナントの時代はその直前にあたります。

 レヴェナントの時代では、白人とインディアンの間で交易があったり、インディアン女性と結婚したりと友好的な関係もあったようですが、映画で出たアリカラ族のように敵対する部族もありました。映画のアリカラ族はフランス人ではない白人を見つけると問答無用で襲いかかっていましたが、歴史的経緯を考えると無理も無い光景なのかなと思いました。

アリカラ族

 アリカラ族は元々温和な部族でしたが、白人によって土地を追われ、アリカラ戦争(1823年)と呼ばれる戦争にまで発展しています。その戦争は映画の冒頭で罠猟師隊がアリカラ族に襲われる直前に行われています。

 その後に疫病などで人口が激減したものの現在までアリカラ族はその言語とともに生き残っています。もちろん映画でも彼らの知識が反映されています(映画にはアリカラ族歴史学者がアドバイザーとして参加)。

毛皮交易

 映画の冒頭で罠猟師隊が獲物をさばいて毛皮をまとめていました。この毛皮、主にビーバーの毛皮です。16世紀以降、ヨーロッパで帽子の材料として使われました。ビーバー・ハットと呼ばれていた帽子は、名前の通りビーバーの毛皮で作られていましたが、乱獲によってビーバーの数が激減し、代わりに絹(シルク)が使われるようになったことで、現在はシルクハットとして定着しています。

 需要が減少したことでビーバー乱獲の時代が終わりを告げ、その後は生息数が回復しています。

 同じように乱獲されたのがバイソンです。インディアンが食用とし、毛皮(テント、服、靴)、骨(やじり)などを利用していました。白人も毛皮目的で狩猟を行うようになり、乱獲が始まります。皮肉なことにインディアンも白人から日用品や酒、銃器を交換するために乱獲しています。最終的には、娯楽のための狩猟やインディアンを飢えさせるために殺すなど、激減してしまいました。

1870年代中期の写真。肥料にするためのアメリカンバイソンの頭骨の山 from Wikipedia記事(アメリカンバイソン)

 映画の中でバイソンの頭骨が山のように積まれていたシーンがありましたが、本物の写真を見るとどれだけの頭数のバイソンを殺したのか想像も付きません。現在は、イエローストーン国立公園などの保護区が設置され、生息数がある程度回復しています。しかし、白人移入前は6千万頭いたと推測されるため、それには遠く及びません。

 グラス達が所属していた罠猟師隊は、ロッキーマウンテン毛皮商会(アメリカの会社)に雇われたメンバーでした。他にもフランス、イギリス、オランダなどの企業が毛皮交易のための会社を作っています。その内のハドソン湾会社は、北米大陸最古の現存する企業です。

 先に記した通り、毛皮目的の獣(けもの)の数がやがて激減し、19世紀半ばには毛皮交易も下火になります。原作小説でも獲物が取れず苦労する様子が描かれていますが、レヴェナントの時代はまだ毛皮交易がさかんだった頃のお話です。

罠猟師

 原作小説では、銃を使って獲物を仕留めることに慎重になっている様子が描かれます。銃を打つと敵対するインディアンに位置を特定されてしまうからです。

 罠猟師(trapper)と言うぐらいなので、罠を仕掛けてビーバーを捕まえていたと思われます。しかし、映画でも原作小説でも罠を仕掛けて獲物を捉える場面は一切登場しません。

 レヴェナントの時代に同じものが使われたかどうか分からないのですが、ビーバー用の罠の動画を見つけました。

 ビーバーの生息する川などに仕掛け、ビーバーが罠に首を突っ込んだ瞬間に金属の枠が閉じて逃げられないようにする仕組みです。これはボディグリップと呼ばれる罠です。

 おそらく、一番使われていた可能性が高いのはレッグホールドトラップです。いわゆるトラバサミと呼ばれる罠です。足を突っ込むと閉じて逃げられないタイプの罠です。これは17世紀に考案され、19世紀には鉄製のものを企業が作り始めています。