映画「メイズ・ランナー: 最期の迷宮」感想
最終更新日:2018/06/26
映画「メイズ・ランナー: 最期の迷宮」を観に行きました。原作の悪かった点が改善された良い作品と感じました。
本記事には映画及び原作のあらすじや結末のネタバレを含みます。ご注意下さい。
当ブログ内のメイズ・ランナーシリーズのその他の感想記事は以下の通りです。
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原題の”The Death Cure”
本作の原題は”The Death Cure”、日本語に訳すと”死の治療薬”、”死の癒やし”などになると思います。日本では映画配給会社の都合で”最期の迷宮”となったようです。あくまでタイトルを”迷宮”で揃えたかったのでしょう。
感想
10点満点で8点です。評価が高すぎだと思う人がいるかもしれません。しかし、原作がひどすぎて、良くここまでの作品に仕上げたなと言う思いから高くなってしまった事を否定はしません。
原作小説の読者目線で見た後では、映画が傑作に見えてきます。原作は行き当たりばったりのご都合主義満載の小説に見えていました。あくまで私から見てですが……。
原作では主人公トーマスの行く先々に協力者が現れ、わりと簡単に物事が進んで行きます。2作目で登場したブレンダとホルヘが実はWKCD(ウィケッド)の関係者だったとか(映画では違います)、ラストシティに当たる都市に偽造証明書で簡単に入れたり、終盤のトーマスがWKCD本部に戻る時も何も怪しまれずにあっさり入れたり、他にも色々とあります。映画もご都合主義な展開が多かった様に思いますが、ストーリーを面白くするために必要なご都合主義だったと私は思います。
原作は、WKCDがウィルス感染症のフレアを作れるはずが無いからと言う理由でWKCDをぶっ潰して終わりでした。映画では友情物語として昇華させ、人類にも救いを持てる結末になったと思います。
あの結末では消化不良の人もいるかもしれません。ですが、原作ではフレア免疫者のみ助かり、人類は助からないような結末だったため、映画の結末は未来に希望が持てるだけはるかにましです。
原作ではトーマスの血液にフレアの特効薬を作る力はなく、フレアの免疫者である以上の要素は無いように見えました。WKCDは特効薬を作る方法が分からず、最終手段としてトーマスの脳を切り刻もうとしていたぐらいです。そもそも、原作では”酵素”と言う言葉自体が出てきません。
映画では、原作で不足していた人物の掘り下げも各登場人物ごとに出来ているように感じました。特にテレサの葛藤、人類救済のための大義とかつての仲間に対する思いとの葛藤を描けていたのは良かったと思います。
ニュートとテレサは原作でも死にますが、その死に方もあっさり過ぎて「これで終わり?」と疑問の残るものでした。特にニュートの死はトーマスが仲間に隠したままなので、映画のほうが納得出来ます。映画の最後のニュートからの手紙も原作では短い文章のみだったので、ニュートとの別れの演出としては映画のほうが良かったです。
映画のストーリーは、ミンホを救出するために一致団結する展開なのが良かったです。原作ではミンホがWKCDにさらわれる事はないため、これは映画独自の展開です。映画2作目の最後でさらわれ、本作の最初で列車から救出を試みる展開は、映画をつなぐ役割をうまく果たしていました。
その後の展開もミンホを救うために一致団結して進むため、ストーリーを理解しやすかったです。この点は監督と脚本家の手腕による所が大きいと思います。監督のウェス・ボールの次回作に期待です。
惜しかったのは、本作の公開が遅れた点です。当初は2017年2月17日だったのが、主演のディラン・オブライエンの怪我により撮影が遅れたためです。顔面の骨の半分を骨折する重症だったそうなので、良く回復して公開までこぎつけたなと思いました。
映画とは関係ないですが、テレサ役のカヤ・スコデラリオが本作が公開されるまでに結婚、出産までしていたのには驚きました。それだけ2作目と本作の間が空きすぎたと言えます。
俳優陣のこれからの活躍にも期待したいところです。メイズ・ランナー3部作では若い俳優が多かったので、これから多くの作品で目にする機会も増えることでしょう。
個人的にはギャリー役のウィル・ポールターの活躍に期待したいです。彼は実際に映画「レヴェナント:蘇えりし者(2015)」、「デトロイト(2017)」などに既に出演しています。
最後に、2014年に1作目が公開され、本作で完結したメイズ・ランナー3部作、この作品に出会えた事に感謝したいと思います。
パンフレット
価格は税込み720円、サイズはA4サイズ(210×297mm)です。全ページカラーです。
内容は以下の通りです。
- キャラクター紹介
- 第1作『メイズ・ランナー』あらすじ
- 第2作『メイズ・ランナー2:砂漠の迷宮』あらすじ
- 本作あらすじ
- インタビュー:トーマス役ディラン・オブライエン
- インタビュー:テレサ役カヤ・スコデラリオ
- インタビュー:監督ウェス・ボール
- 記事:相馬学(映画ライター)
- 記事:小林真里(映画評論家)
- プロダクションノート
過去2作のパンフレットの内容とほぼ同じです。
しかし、プロダクションノートにキャストコメントをほぼ押し込めるような形はいかがなものかと思います。「砂漠の迷宮」ではキャストごとに分かりやすくコメントを抜き出してまとめていたのに、非常に分かり難くなっています。段組みが読みにくいと感じた箇所もあり、あまりこだわりを感じられませんでした。
また、最終作品のパンフレットとしては情報量が少ないと感じました。コレクターアイテム的な要素しかないように思います。
原作3部作に対する思い
感想で原作小説を散々に批判しました。しかし、米Amazonの原作評価を見ると3作品とも5点満点で4.3点以上と非常に高評価です。
私も1作目は大量のスラングに読み難さを感じつつも、ある程度の面白さを感じました。しかし、問題は2作目以降です。
2作目は、トーマス達は2週間以内に160キロ先のセーフヘブン(安全地帯)までたどり着けとWKCDに命令され、困難に立ち向かいながら進み続けます。映画の最後に出てきたセーフヘブンはここから出て来た言葉です。
3作目は、お金と資源を無駄にするばかりでフレアの特効薬を作れるはずがないと言う理由でWKCDが潰されておしまいです。
全体的に2作目以降はトーマス達が行動する理由が曖昧で、主体性を持って行動しているように思えませんでした。その時々の流れに身を任せる展開が多かったように思います。
良く言えば謎が散りばめられてジェットコースター的な展開と言えなくもないので、海外ではそれが受けているのだと思います。それとキャラクター人気による所もあるのかもしれません。
巨大迷宮に若者達を放り込んで脱出させる話を作ったところまでは良かったと思いますが、それを生かす所までには至らなかったと思います。結局、あそこまでの規模の迷宮を作る意味が、原作でも映画でもよく理解できないまま終わってしまいました。
これを言ったら身もふたもないのですが、あんな迷宮を作るぐらいなら研究施設に時間とお金を注ぎ込むべきです。迷宮の存在意義をうまく説明出来なかった点は原作者のジェイムズ・ダシュナーの力量不足でしょう。
そもそも、原作のSF要素の描写は全体的に甘く、メイズ・ランナーの世界の科学技術水準がどうなっているのか最後まで曖昧なままでした。特に2作目では、作者が科学と魔法を混同しているような印象を受けました。具体的には、必要に応じて消せる見えない透明な壁、人間の頭部を一瞬で金属球体に変える攻撃、意思を持ったかの様な液体金属による窒息攻撃などです。これらが3作目では一切出てきません。当然映画にも出てきませんでしたが……。
映画では説明されませんでしたが、ウィルス感染症のフレアが世界中にまん延した原因は、太陽フレアによって地球環境が破壊され、軍の研究施設から生物兵器の人工ウィルスが漏れたためだそうです。生物兵器ならワクチンが無いと兵器として使えないだろうとか、どれだけ杜撰な管理してたんだとか、色々と突っ込みたくなります。
全体的な感想としては、キャラクターやストーリー構想に魅力を感じるものの、ライトノベル全盛の日本人向けの小説ではないため、読み手を選ぶ作品だと思います。ここまで批判しておいて読みたいと思う人は少ないと思いますが、映画は原作をかなり改変しているので、その違いを知りたい人は手にとって見るとよいのではないでしょうか。